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難問への敬意 地下鉄サリン事件22年目の日に


1990年代を特徴づける最大の社会的事件は何か、と問われたならば、「オウム真理教による地下鉄サリン事件」と答える人が多いだろう。それほど、私たち同時代人にとって、あの事件は衝撃的であった。ただし、衝撃的であったのはオウムが「想像もできない事件」を起こしたからではない。誰もが「空想はするが、まさか実行しようとは思わない」事件を起こしたからである。


 思春期には、誰だって親と喧嘩して「殺してやりたい」ほど悔しく思うものだ。定期試験ができそうもない時には「学校が燃えちゃえばいいのに」と思うし、盛り場で不良にからまれた時には「機関銃があれば皆殺しだぞ」と心の中で啖呵を切る。それらは人間として当り前の心理である。しかし、人間には、何らかの原因で心の中の空想を抑えられなくなることがある。すると、それは「妄想」となって人間を襲い、犯罪行為を実行させ、本人とその周囲の人間を破滅に導く。そういう場合でも、多くの「犯罪者」は「魔が差した」と感じ、後悔する。オウムが人々を驚かせたのは、こうした「空想の壁」をやすやすと乗り越えて毒ガスを作り、軍用ヘリを買い、機関銃の量産を計画し、気に入らない人間を抹殺したからである。


 評論家も普通の主婦も、人々の疑問は同じである。「なぜ、高学歴の信徒があんなに大それた犯罪行為を行なったのか。」答えのヒントは、裁判やインタビューで若い出家信徒のほとんどが語る「尊師はどんな疑問にもたちどころに答えてくれる。すごいと思った。」という言葉の中にある。


 人生に疑問はつきものである。しかも、「宇宙の神秘」から「明日の自分」に至るまで、「わからない」ものほど大きな価値をもっている。そうした「わからない」ものを軽く解き明かしてしまう「指導者」に出会ったら、深く悩んでいる者ほど強く惹きつけられることは想像に難くない。


 しかし、よく考えると妙である。頭脳明晰な者がなぜ難問を自分の力で考えないのか。なぜ、自分に関して深く悩んでいる問題の解決法をたやすく他人に尋ね、安直な即答に満足しているのか。なぜ、まだ若く人生経験も少ないのに「解脱」できてしまうのか。要するに、学歴の高低などに関係なく、「どんな難問でも必ず答えが見つかる。」「自分で考えてもわからなければ、人に聞けばよい。」と考えているところが最大の問題なのだ。


 私の専門は哲学だが、思想史を眺めると必ず繰り返し登場する難問がある。「宇宙の大きな秩序と人間の行動規範はつながっているのか」「人間は何ものにも制約されず自由に生きられるか」「人間も含め、全ての存在に意味はあるのか」などの問いは、古代から現代まで、宗教から最新の科学的な哲学に至るまでの知によって、ありとあらゆる時代と場所で問われてきたのである。時折、自称「思想家」が「私はこんなすごいことを思いついたぞ!」と叫ぶことがあるが、よく聞いてみると、その「新発見」は仏教の教義に入っていたり、17世紀の大哲学者の説を焼き直しただけであったりする。自称「思想家」氏は単に不勉強で、先人の教えを知らなかっただけなのだ。このこと自体が「難問」への取り組みがいかに困難かを教えてくれる。


 難問には近づくための道のりが必要だ。それゆえ、難問は豊かでありうる。さて、われわれは、もうお手軽に、簡単に考えるのをやめようではないか。難問にぶつかった時には、自分の力で悩もうではないか。そして、悩むことの意味自体を重んじ、悩みながら生きていく強靭な精神を鍛えようではないか。思考停止・ネット依存の人々があふれる今、「知に携わる者の使命は難問の擁護・難問への敬意である」と、私は敢えて宣言する。


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『ミュシャ展』を見る


新美術館のミュシャ展。まず「スラブ叙事詩」の巨大さに驚く!

全20点の労作に声を失う。

後半のアールヌーボーのミュシャが霞んでしまうような圧倒的迫力。


19〜20世紀の東欧に生きる人々の、過去への望郷と未来への自立の熱望を表現した、渾身の力作。

「アレクサンドル・ネフスキー」から「悪童日記」に至るまで、彷徨うスラブの魂を集約した作品である。


チェコアニメ「アマールカ」のイメージがスラブの伝統的女性像と知る。白い衣装に頭の花環。

男女の様々な被り物に民族の多様性を知る。

ジョーカーはスラブ衣装だったのか?



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きたやまおさむ『コブのない駱駝』を読む。


ドクター北山修がミュージシャンきたやまおさむの自伝を書いた。


少し前にアルフィーのラジオ番組に出た北山の2時間に及ぶ話が面白く、番組で薦めていたこの本を買った。


個人的に気になっていたのは、分析医としての自分と親友加藤和彦の自殺の関係。おそらくそれを振り返る意図もある著書なのだろう。


自分を振り返るという行為を、前向きに考える人の読むべき書だ。「潔く去っていかない」という主張に共感。


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『アサイラム』を見る(T . T)


ポーの原作。患者が医師と入れ替わってしまった精神病院。

原作もイマイチだが映画もイマイチ。マーリー・エイブラハムにマイケル・ケインという豪華俳優陣が生かされていない。

翻案して現代の話にすると面白くなっただろう。

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『リリーのすべて』を見る (?_?)


原題は「the danish girl」。そのまま。


性転換手術を受けた草分けリリー・エルベと妻ゲルダを描く。とはいえ、妻がどんな人かよくわからない。調べるとエロティックな作品も描いているアールヌーボーのアーティストだ。


ひとことで言えば、トランスジェンダーが犯罪や精神病だった時代に苦悩した夫婦の話である。


原作が小説なので、映画も事実と違うという批判があるようだ。そこの割り切り方がうまくいっていない印象。


手術は他人の卵巣や子宮を移植するもので、それが原因で死亡。今なら形成術だけで終わりだから、ずいぶん無茶をしたと思う。


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『パリ3区の遺産相続人』を見る (^_;)


原題は「my old lady」。こっちの方がいい。

この映画の中心は「ヴィアジェ」。売却しても死ぬまで住み、その間年金として代金を受け取るグッドアイデアの制度。
日本で銀行がやりだしたリバース・モーゲージみたいなもの。

主演のケヴィン・クラインのイライラ演技が不愉快。事情があるのだが、老人への敬意を欠き過ぎ。

不倫するなというメッセージも余計なお世話。

最近の映画にマイケル・ケインやマギー・スミスがやたら出演しているのは、マッチョ系の俳優ばかりになって演技派が少ないからだな。
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『グランドフィナーレ』を見る (;_^)


マイケル・ケイン、ハーベイ・カイテルがボロボロ二老人を演じる。原題はyouthだから、若さについて考える映画である。邦題はおかしい。


妻と自分の関係が作品の鍵になっている割には、よくわからないストーリー。芸術家も放縦はやめろという説教臭い内容にも思える。


カイテルの幻想シーンは過去の映画へのオマージュだろうが、今の観客にわかるのだろうか?

キャリーには笑った。


ジェーン・フォンダのクソババ演技がいい。

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クラーナハ展を観る


西洋美術館。ヴィーナス、ルクレツィア、ユディットたちに出会う。山本じんを始め、多くの画家に影響を与えていることがよくわかる。


しかし、妖艶な女性はこれくらい。他は工房作品と肖像画という構成。有名なルターの肖像も。宗教改革の時代にボス、デューラーらの同時代人であった実感。


ザクセン選帝侯フリードリヒ賢明公のテンペラ画が素晴らしい。技法としては油彩に座を譲ったが、独自の繊細な味わいがある。『国家に殺された画家』平澤貞通の作品を実見したくなる。


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